大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)1272号 判決

主文

原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人堀部進、同松永辰男の上告理由について。

原審は、上告人の所有にかかる名古屋市a区b町c番地の一境内地五五九坪三合八勺のうち四〇〇坪ほか二筆の土地の仮換地である本件土地上に被上告人らが建物を所有することにより、それぞれ本件土地を権原なく占有しているものとして、上告人が右仮換地に対する使用収益権に基づき右建物の収去による本件土地の明渡を求めたのに対し、被上告人らの抗弁を採用して、被上告人らは、昭和二一年頃、それぞれ上告人との間で直接右土地について賃貸借契約を締結するか、または、そのころ訴外Dが上告人に対して有していた右土地の賃借権を上告人の承認のもとに譲り受けるなどして適法な賃借権を取得したものと認定し、被上告人らの占有権原を認めて、上告人の請求を排斥している。

しかし、原審が被上告人らまたは訴外Dにおいて右賃借権を取得したと認定した当時施行されていた旧宗教法人令(昭和二〇年勅令七一九号)一一条には、宗教法人たる寺院が不動産を処分するについては総代の同意を要する旨、当該寺院が宗派に属するものであるときはさらに宗派の主管者の承認を受けることを要する旨、右の総代の同意または宗派の主管者の承認を受けないでした行為は無効とする旨を定めていたのであつて、建物所有を目的とし、民法六〇二条所定の存続期間をこえる土地の賃貸借契約は、右にいう不動産の処分にあたるものと解される(最高裁判所昭和三六年(オ)第一八六号、同三七年七月二〇日第二小法廷判決、民集一六巻八号一六三二頁参照)ところ、原審は、被上告人らに関する土地賃貸借契約(原審が右賃貸借について民法六〇二条所定の存続期間をこえない期間の定めがあつたことを認定したものではないことは、その判文に照らして明らかである。)を認定するにあたり、上告人(正確には宗教法人法施行前における旧法人たるA)の総代の一人であるDが、当時住職として主管者の地位にあつた亡Eおよび総代の一人であるFの長男Gらと相談して、本件土地を利用しその収益によつてAの維持を図ろうとし、Dにおいて土地上に建物を建築し、これに多数の者を入居させてAに地代を得させる方針であつたところ、Dは、建築資金に窮し、結局、被上告人らに右建物を売却し、被上告人らにおいて右建物を所有しその敷地の貸借人となつたとの事実を確定したにすぎず、総代でないGに本件土地を右のような目的に利用するについて同意を与える権限があつた点については格別の判示がないのみならず、原審の確定した事実関係のみをもつてしては、いまだ旧法人たるAの主管者であつたEが被上告人らまたは訴外Dとの間で原判示の賃貸借契約を締結するについて同令一一条所定の総代の同意があつたものと認めることはできない。

してみれば、旧法人たるAと被上告人らないし訴外Dとの間に締結された土地賃貸借契約は同令一一条に照らして無効と解すべきであるのにかかわらず、これが有効であることを前提にして被上告人らの本件土地の占有権原を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備の違法をおかしたものといわざるを得ないから、諭旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

もつとも、原審の認定した事実関係に徴すれば、上告人は、昭和三六年六月頃までは被上告人らから本件土地の地代を異議なく受領していたというのであるから、宗教法人法(昭和二六年法律第一二六号)の施行後、上告人と被上告人らとの間に新たな本件土地の使用に関する合意が成立したかどうかについてはさらに審理する余地がないとはいえず、被上告人らの主張にはそのような趣旨が窺われないではない。ただ、本件において上告人所有の土地については仮換地の指定があり、上告人は被上告人らが現に仮換地上に建物を所有しこれを占有していることを理由に建物の収去、仮換地の明渡を求めるものであること前示のとおりであるが、原審は、右仮換地の指定があつた日時、被上告人らが仮換地上に施行者からかりに使用収益しうる部分の指定を受けたものかどうかについては確定していない。しかし、かりに被上告人らが従前の土地について賃貸借契約に基づく占有権原を有していたとしても、被上告人らに対して使用収益部分の指定がなければ被上告人らは本件土地を使用収益する権原を有しないことになる余地があるから、右の審理にあたつては、なお被上告人らの占有権原について釈明をし、この点に関する事実関係をもあわせて審理すべきである。

よつて、民訴法四〇七条に従い、本件を原審に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例